光のもとでⅠ
 本来、楽器はピアノのように調律師がいるもののほうが少ない。
 たいていはどの楽器も奏者自身がメンテナンスをし、パーツが壊れたり、細かな調整が必要なときだけメーカーメンテナンスに出す――はず。
「葉月さん、メーカー担当は今すぐ来れる?」
 そう優しく訊いたのは朝陽先輩だった。
 彼女は涙目で首を振る。
 どうやら、いつもお願いしているメーカーさんは土日がお休みらしい。
「じゃ、このあとの演奏は全部なしにする?」
 その言葉に今度は涙を零した。
 朝陽先輩はいつものように穏やかな物腰で話を進める。
「この子もハープを弾く子なんだよね。で、弦の張替えもできるんだ。今回だけでも張り替えてもらったらどうかな?」
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