光のもとでⅠ
 全部の弦をしっかり掴んだあと、音の調整に入る。
 調弦は得意なほうだと思うけど、二十九弦の調弦にはそれなりの時間を要す。
 張り替えた音だけは音階に組しない音に設定し、ナイロン弦をできるだけ伸ばすため、許される範囲で無造作に締めていた。
 けれど、これもやりすぎればすぐに弦が切れる。
 そこは自分の経験だけが頼り。
 精密さには欠ける程度に調ったら、力いっぱいにアルペジオを弾く。
 今度はしっかり掴んだ状態で弦をはじくのだから、当然音も鳴る。
 それも普段演奏するような穏やかな音ではなく、荒ぶった音。
 強弱記号でたとえるならフォルテシシモくらい。
 咄嗟に周囲のマイクをオフにしてくれたのは朝陽先輩と都さん。
 それらを二クール済ませたあと、完全五度調弦に入る。
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