光のもとでⅠ
「あっちのお部屋じゃ曇りガラスで見えなかったから……」
 と、彼女は控え目に話す。
「そっか。幸倉では翠葉ちゃんの部屋は南向きだもんね」
 彼女の家の彼女の部屋は、彼女のためだけに作られたこともあり、いろんな意味で居心地が良かったのだろう。
「蒼樹が帰ってきたらここのソファの位置を変えてあげるよ。そしたら床に転がらなくてもいいでしょう?」
「……でも、ここのソファ重いんじゃ……」
 確かにひとりでは移動させることができない。
 コンシェルジュを呼べばすぐにでも移動させることはできる。が、そこまですると彼女が気に病みそうだから……。
「うん、だから蒼樹が帰ってきたらね」
 言うと、彼女は少しだけ嬉しそうな顔をした。
「さ、お昼に何か食べなくちゃね。栞ちゃんからメールが届いて、グレープフルーツのゼリーを食べさせてって言われたけれど、食べられそう?」
「はい」
「じゃ、ちょっと待っててね」
 ワイシャツの袖をまくりながらキッチンへ行く。と、すかさず携帯のモードを替えた。
 すごい速い鼓動に思わず嬉しくなる。
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