光のもとでⅠ
 冷蔵庫からデザートグラスとお茶のポットを取り出し、ソファの背面から近寄ると、彼女は深呼吸を繰り返していた。
「なんで深呼吸?」
 声をかけると、「きゃぁっ」と飛び上がりそうな声を発する。
 そんな彼女がかわいくて仕方がない。
「なかなか降参しないよね?」
「……降参、ですか?」
「そんなに俺のことを意識しているのに、どうして流されてくれないかな?」
「っ…………」
「気持ちに流されてしまえば、そんなに困った顔ばかりしなくて済むのに」
 上から顔を覗き込めばすぐに赤くなる。
 二秒ごとくらいに表情が歪んでいって、終いには眉の形が変わってしまった。
「くっ、眉がハの字型」
 からかいすぎたかな。今にも泣きそうな顔をしている。でも――。
「……泣いちゃうくらいならさ、俺のところにくればいいのに」
 思わず本音がするりと出た。
「……まだ泣いてないですっ」
「でも、目からは零れそうだよ」
「っそれは……」
 この辺でやめておこうか。
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