光のもとでⅠ
 自分ひとりのピアノ演奏なら多少アレンジが入っても違和感なく弾く自信はある。
 けど、ほかの人と合わせる合奏ではソロ部分でない限りそれはしてはいけない。
 神楽さんがそこだけは、と言うくらいには、ほかの楽器とずれるのはまずいのだろう。
 とくにベースラインやドラム、リズム隊とはずれちゃだめ、という意味だと思う。
「無理なら弾かない」と言った神楽さんは、その部分に差し掛かるとベースの風間先輩が見えるように立ち位置を変えてくれた。
 ピックを弾く動作が視界に入り、演奏が合わせやすくなる。
 本当だ……。神楽さんと都さん、ほかの奏者が引っ張ってくれる。
 そう思ったら、肩から余計な力がストンと抜けた。
 それが音に現れたのか、茜先輩がこちらを見てにこりと笑う。
 楽しもう……。
 最後のサビに入る頃、ようやくそう思えた。
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