光のもとでⅠ
「翠葉ちゃん、ちょっと訊きたいんだけど、何がどうしてそういう質問だったのかな?」
「だって……ごめんなさいとお辞儀はセットでしょう?」
「くっ、そういうことか……」
 きっと家でそういうふうに躾けられているのだろう。
 再び笑いがこみ上げてくる。
「どうしてこんなに笑われなくちゃいけないの?」
 彼女は困りきった顔で口にした。
「ちょっと俺たちにはツボだったんだ」
 やっと笑いがおさまったらしい蒼樹が涙を拭きながら彼女に近づくと、
「翠葉、今は体起こせないだろう? 体が起こせるようになるのを待っていたら当分は謝れなくなっちゃうよ。それに、先輩は翠葉の状態を知っているわけだから、お辞儀がセットじゃなくても問題ないよ。確かにうちでは人と話すときは人の目を見て、とか、謝るときは頭を下げて心から謝るって躾けられているけれど、すべてがその限りじゃないよ」
「そうなの……?」
「そう。先輩がね、翠葉にプリン食べさせたいって言うから、俺はあっちにいるよ」
「え……!?」
「大丈夫だよ。もう一度、ちゃんと話してみな」
 それはどこを取ってもお兄さんの顔だった。
 対して、彼女は困った顔のまま沈黙していた。
「翠葉ちゃん、もう一度話をしよう」
 彼女は俺の顔を見て、「はい」と小さく答えた。
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