光のもとでⅠ
 昨日今日と、言わなくてもいいようなことまで喋るこの口が恨めしい。
 ツカサは立ち止まり振り返る。
「唇が、何?」
 手を引かれ、つんのめるようにしてツカサの前に立つ。
 切れ長の目に至近距離で見つめられると、それだけで心臓が止まりそうだった。
「なんでも、ない……」
 そう答えるのが精一杯。
 お願い、これ以上はもう何も訊かないでで――。
 そう思いをこめてツカサを見上げると、
「そういう顔で見るな……。何を懇願されているのか勘違いしそうになる」
 そう言うと、「あと少しでマンションだから、もう少しがんばって」と、再度歩き始めた。
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