光のもとでⅠ
「何」
「意外です」
「知ってはいたけど失礼なやつだな」
 苦し紛れに返した言葉だったが、翠はクスリと笑う。
 今、翠は何を思ったんだろう……。
 そんなことを考えつつ、
「口外はしないように」
「はい、秘密にします」
 そう言って笑った顔が天使のように見えた。
 翠の笑い声と表情には不思議と毒気を抜かれる。
 浄化されるとはこういうことを言うのだろうか、と柄にもないことを考えるくらいには。
「少し、楽になったみたいだな」
「……え?」
「今日、ここに来たときはすごくつらそうな顔してた」
「あ……心配かけてごめんなさい」
 翠は眉尻を下げて申し訳なさそうに口にした。
「……秋兄と付き合うって聞いた」
「……そうなの」
 肯定したものの、翠は困ったような顔をしていた。
「……念願叶ったり、だろ? ならもっと嬉しそうにすればいいものを」
 翠の表情、言葉ひとつもらさず見ていたくて視線を固定した。
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