光のもとでⅠ
 そんな俺をじっと見て、
「嬉しいは嬉しいの……。でも、なんだか戸惑うことのほうが多くて」
 なるほどね……。事態の変化についていけないというところか。
 でも、秋兄が無理矢理推し進めたわけでもなさそうだ。ならいい……。
「嬉しいなら嬉しいで笑ってればいい。翠は笑ってるほうがいい」
 なんでそこで黙って俺の顔を凝視するんだ……。
 やめろ、そんなにじっと見るな……。
 思わず固定していた顔を逸らす。と、今度は「先輩?」と声をかけられる。
 普段は鈍いくせに、こういう変化にだけ気づくな。
 ごまかす理由なら適当に転がっている。
「……ってみんなが思ってる」
 咄嗟に言葉を付け足すと、翠はそれで納得した。
 素直て単純で鈍感で無防備で――そのくせ変なところで警戒心が強くて鋭い。
 厄介な人間だと思うのに、なのに俺は翠が好きだ。
 それに、最近は警戒されていないと思う。
 少しずつ確実に距離を縮めている手ごたえはあった。
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