光のもとでⅠ
「そんなに意外?」
 コクリと頷く仕草がかわいいと思った。
 体を起こしているときにそれをすれば、長い髪が連動してさらりと動く。けれど今は、横になっているため、シーツで髪が乱れていた。
「……でも、諦めるつもりはない。俺を見てくれるまでは待つつもり」
 翠はたっぷりと間を空けてから、
「その人は幸せですね。こんなにも先輩に想ってもらえて」
 その相手が自分であるとは全く気づかずに口にする。
「……それはどうかな。好きでもない男に想われていても迷惑なだけじゃない?」
「……どうでしょう。私にはそういうのはわかりませんけど」
 きっと翠はきちんと言葉にしないと自分だとは自覚しない。もしかしたら、なんて寸分も思わないのだろう。
「恋愛って楽しいだけじゃないんですね……」
「俺はまだ恋愛がどういうものかはよくわからない。でも、悪いものではないと思う」
 まだ言葉が続くと思ったのか、翠は口を挟まずに俺をじっと見ていた。
「気持ちが報われるとか、そういう自分主体もあると思う。でも、俺はそいつが笑ってたらそれで満足みたいだ」
 だから、連日泣き顔なんて見せないでほしい。できれば笑っていてほしいんだ。
 それでも、泣きたくなったときには頼ってもらえたら嬉しい。ひとりでは泣いてほしくないし、ほかの人間の前でも泣かれたくない。
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