光のもとでⅠ
「先輩は心が広いですね」
 そんな大したものでもない。
「そうでもない。ただ、自分の目が届くところに対象がいればなんとなく安心なだけ」
「……そういうものですか?」
「今のところは」
 ただ、強いて言うなら秋兄とふたりでいるところは目にしたくないけど……。
「その人が先輩のことを理解してくれるといいですね」
 ……その相手にこう言われているのだからまだまだ道のりは長いだろう。
 思わずため息をつくくらいには。
「……かなり鈍いんだ。だから、まだ当分先かな」
「じゃぁ、先輩はがんばらなくちゃですね」
「……それなりに――翠、何か悩みがあればいつでも聞く」
 鈍くてもいい、今はわからなくてもいい。だから、そのポジションだけはキープさせてほしい。
「今のところはないと思っているんですけど、時々自分でも悩んでいることに気づいてなくて……」
「翠らしいけど、バカだな」
 つい真顔で返してしまった。
「でも、先輩のことは頼りにしています。きっとこれからも頼ることがあると思います」
「……いつでもどうぞ」
 素っ気無く答えたものの、実のところはかなり嬉しかった。
 こんなふうに言ってくれたのは初めてだった。しかも、翠の中でそのポジションは意外と特別な部類に属すと思う。
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