光のもとでⅠ
 俺が乗ってきたはずのエレベーターは九階へと降りたところだった。
 おかしい……。
 このマンションのエレベーターは人がボタンを押さない限りは停まった階で待機しているタイプのものだ。なのに、九階から上がってくるとは……。
 九階の住人の行動を考えても、この時間に動きそうなのは美波さんくらいなもの。しかし、エレベーターは下へ行くことはなく十階へと戻ってきた。
 エレベーターの中には翠葉ちゃんを抱えている葵が乗っている。しかも、彼女の手が葵の首に回されているというのはどういうことだろうか……。
 俺と目が合うと、葵は顔を引きつらせた。
 ドアが開くと開口一番、
「葵くん……どうして君が彼女を抱っこしてるのかなぁ」
「あのっ……ごめんなさい――」
「どうして翠葉ちゃんが謝るの?」
「私がお願いしたから……」
 なんとなく察しはついていたし予想もできた。でも、面白くはない。
「とりあえずうちに……」
 と、葵にエレベーターから出るように促した。
「ね、このあとふたりで大丈夫?」
「自信はないです……」
 仲良さ気に顔を近づけて話すのが許せなかった。
「ふたりしてなにこそこそ話してるの?」
 家のドアを開けて尋ねると、
「先輩……彼女、先輩に抱っこされるのが恥ずかしかっただけなので、あまりいじめないでください」
 葵の言葉はフォローにすらならない。
< 633 / 10,041 >

この作品をシェア

pagetop