光のもとでⅠ
「あとで編修されたものがDVDで見れる」
「そうじゃなくて……今、この瞬間に鳴ってる音。振動とセットのがいい」
 本当に珍しい……。
 でも、「珍しい」とそのまま口にするわけにもいかず、
「……わがまま」
「うん……」
「開き直るな……」
 そこで諦めたのか、翠は何も言わずに俯いた。
 左手は歩きながらずっと壁に添えられている。
 それはきっと、会場から伝う振動を感じるため。
 俺は少し考え、深く深くため息をつく。
 俺、間違いなく翠には甘いと思う。
 それを翠はどれほど理解しているのだろうか。
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