光のもとでⅠ
 佐野の言い分に反論するふたりは、どこか自分の姉に通じるものがある気がしてならない。
「あの……私、初見は苦手で」
 不安そうに口にした翠に、
「ショパンのエチュードにラフマニノフの嬰ハ短調プレリュードだっけ? そんなのが弾けるんだからなんとかなるわよ」
 少し冷ややかな印象のするほうが答えた。
 ラフマニノフ嬰ハ短調プレリュード――その曲名には覚えがある。
 俺と一緒に市街へ出かけたときに買った楽譜がそんな名前だった。
「さ、上がる準備しよっか!」
 ピンクのドレスを着た女の一言で人の移動が始まる。
< 6,556 / 10,041 >

この作品をシェア

pagetop