光のもとでⅠ
 歌を歌って息が切れたのはこれが初めてだった。
 途中何度も苦しくなり、水が欲しいと思った。
 喉が渇いているというレベルを通過して、身体が欲しているレベル。
「海斗、水」
 インカムでそれだけを伝えると、「俺が持ってる」と朝陽の応答があった。
 昇降機が下がり始めると、俺は奈落の一方向に視線を固定した。
 さっき、翠と風間がいた方向。
 翠の姿が見え、まだ一緒にいるのかと頭がかっとする。
 が、何かおかしい。
 翠は自分を抱きしめるようにして俯いていた。
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