光のもとでⅠ
 ふたりが上がってきたエレベーターは再度下へと下りていった。
 そこへザザザ、と急に雨が降り出す。
 夕立か……?
「緑が喜ぶね……」
 彼女の小さな呟きに、蒼樹が「そうだな」と答えた。
「最悪……。バケツひっくり返したような雨じゃん」
 若槻が手すりから飛びのき、蒼樹の隣に並ぶ。
 兄妹ごっこなんて言いつつ、本当に兄妹みたいじゃないか。
 若槻が彼女の顔を見て、
「リィ?」
「なんでしょう……」
「なんか複雑な顔してる」
「……雨は嫌いじゃないんです。でも、低気圧は好きじゃないかな」
「それ、矛盾してない?」
 若槻は矛盾に顔をしかめた。
 ……痛み、だろうな。疼痛発作を恐れるから低気圧が怖いんだ。
 何も答えない彼女の代わりに蒼樹が口を開いた。
「雨は好きなんだ。ただ、低気圧が来ると疼痛発作を起こしやすくなるから……。だから苦手なんだよ」
「疼痛まで持ってるのっ!?」
 若槻が訊けば、彼女は苦笑を返す。
「……原因わかってなくて、あまり有効な対処法がないんです」
「そっか……」
 医者がどうすることもできないものを俺がどうにかできるわけがない。ただ、側にいてほしいと思っていたはずなのに、今では彼女のすべてが欲しくて気が狂いそうだ。
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