光のもとでⅠ
 彼女は時々こちらに視線をよこすものの、困惑した顔で視線を逸らす。
 間違いなく、俺、態度にも顔にも出てるんだろうな。どこかで切り替えないと――。
 そんなことを考えていると、エレベーターが十階に着いた。
 中に入っていたのは司。
「司、ずいぶん濡れたな」
 蒼樹が声をかけると、言ってくれるな、といわんばかりにため息をひとつついた。
 そこに、思いも寄らない声が聞こえてくる。
「……水も滴るいい男?」
 彼女だ。
 蒼樹の肩越しから司を見て目を見開いていた。
 まいったな、すごい打撃だ。
「わ……余計なこと言ったかも」
 彼女は考えていること駄々もれの口を手で押さえる。
 こういう子なんだけど、今は正直きつい……。
「翠……感情駄々もれっていうか、口から漏れてるから」
 司が呆れ気味に答え、「すぐそこまで来て急に降られた」と前髪をかき上げる。
 その司に釘付けになる彼女……。
「翠葉……それこそ感情駄々もれだ」
 蒼樹が苦笑しながら彼女を諭す。と、恨めしい顔をして、
「……だって、格好いいんだもの」
「リィは正直だな。彼氏に昇格した秋斗さん形無しだね」
 若槻はおかしそうにくつくつと笑っていた。
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