光のもとでⅠ
「泣いちゃうくらいに怖いか」
 若槻の声に心臓が止まるかと思った。
 ……翠葉ちゃん、泣いているのか?
「そんなに怖いものでもないんだけど……。でも、やっぱ初めての女の子は怖いのかなぁ……」
 若槻の声だけが淡々と聞こえてくる。
「でもね、あの秋斗さんが我慢するほどにリィは想われているし、大切にされてるんだよ?」
「え……?」
「あの人、どうでもいい相手ならその場の雰囲気で手ぇ出すから」
 そこに蒼樹と翠葉ちゃんだけというよりは、若槻がいたほうが断然にいい。でも、頼むから余計なことは言わないでほしい。
「翠葉、こういう話を兄からするのもどうかと思うんだけど……。人間の三大欲求って知ってるか?」
「食べることと睡眠と――性欲」
 最後の一言はとても小さな声だった。
「そう。で、先輩は取り分け性欲が突出してる人」
「あんちゃんわかり易すぎ」
「だからね、その人が一ヶ月も我慢してるってすごいことだと思うんだ。……もっと我慢しろとは思うけど……」
 最後の一言が、急にこちらに向いて発せられているように感じ、ドキリとする。
 それは何? 背徳感のなせる業? それとも、ここにいるのばれてる!?
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