光のもとでⅠ
「ほら、そんな顔してないで上がれよ。別にこれを賭けの代償になんて思ってないからさ」
 背を押され、「早く行け」と言われた。
「悪い……」
 奈落を離れ図書棟に着くと、図書室には人の気配がなかった。
 仕事部屋の電気もついていなかったことから、翠はもう帰ったのだろう。
 まだエアコンがついていた名残がある部屋に足を踏み入れ、窓際の椅子を引く。
 背もたれに背を預けて天井を見上げるような姿勢で、窓から見える月を眺めていた。
 頭を抱えたくなるような出来事が多かったからか、首を目一杯反らせるのはひどく気持ちよく感じた。
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