光のもとでⅠ
 さっきまではあんな会話をしていたのにな……。
 校庭に着いたら翠の好きな男が現れるのだろうか。
 翠に好かれていて気づかない男はいないだろう。
 そのくらい、翠の感情は駄々漏れだと思う。
 俺は……また、目の前で翠を掻っ攫われるのか――?

 俺たちが校庭に着くとフォークダンスは終わっており、ワルツがかかっていた。
 このテンポのワルツは翠には無理だろう。
 俺は曲を聞きながら、一歩後ろを慎重な面持ちで一段一段階段を下りる翠を見ていた。
 足元の階段に注意を払うのに必死な翠は、つないでいる手にも力をこめていた。
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