光のもとでⅠ
 胸元から、「行った?」と小さな声が聞こえてきて、「行った」と答える。
 顔だけを出してやるとほっとしたように息を漏らした。
 そんな音すら聞こえる距離。
「ツカサ――」
 翠が声を発したと同時にほかの声も聞こえてくる。
 翠は咄嗟に自分の口元を両手で覆い、息も止めたのではないか、と疑うくらいに身体を硬直させた。
 そこまで硬くならなくて大丈夫だから……。
 抱き寄せる腕に力をこめたのは無意識だったと思う。
 何も考えず、このまま抱きしめていられたら、と思った。
< 6,871 / 10,041 >

この作品をシェア

pagetop