光のもとでⅠ
 秋兄に視線を落とすと秋兄も俺を見上げていた。
 声をかける必要はない。今のやりとは聞こえていたのだから。
 もっと言うなら、俺が来る前からの会話だって聞いていたのだろう。
 小さくため息をつき、リビングへ行き照明を点ける。
 キッチンでコーヒーを淹れながら、
「電気も点けずに廊下で何座り込んでるんだか……」
 部屋から閉め出しを食らったのは事実だろう。しかもあの携帯……。何度も電源を入れる操作をしていたにも関わらず、一度としてディスプレイには明かりが灯らない。
 壊れたんだか壊したんだか、なんなんだか……。
 ま、秋兄の表情からして相当機嫌は悪そうだけれど。

 玄関で音がし、栞さんだろうと迎えに出ると、今度は栞さんが不思議そうな顔で佇んでいた。即ち、不思議そうな顔を向けられているのは秋兄なわけだけど……。
 栞さんは何を言うでもなく、荷物を置くとすぐに翠の様子を見にいく。
 秋兄がやっと立ち上がり、栞さんが持ってきた荷物の半分を手にしてキッチンへと歩いてきた。自分も残りのものを手にキッチンへ戻る。
 冷蔵庫へ詰める作業は栞さんに任せてコーヒーカップを片手にリビングへ行くと、携帯の電源を入れる動作を繰り返す秋兄がいた。
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