光のもとでⅠ
「……壊れたの?」
「おまえが玄関開けなかったら携帯落とすこともなかったんだけどな」
「それ不可抗力だし。第一、あんな低い場所から落下して壊れるなんて運が悪いとしか言いようがない」
 精密機器だから衝撃にはそれほど強いものではないだろう。ただ、あの高さからの落下で故障とは運が悪かったの言葉に尽きる。
 相手するのは面倒そうな機嫌だったから、俺はコーヒーを飲みながら持ってきた本を読み始めた。
 秋兄の気配がなくなったことに気づいて振り返ると、
「若槻、ちょっと付き合えよ」
 と、廊下から若槻さんに声をかけその返事を聞くでもなくゲストルームを出ていった。
 若槻さんは、「マジでっ!?」と慌てて部屋を出てくると、靴を履くのもそこそこに玄関を出ていった。
 女漁り……であってはほしくないけど、そのあたりの信用は低い。
 妥当なところで携帯の修理。もしくは手っ取り早く機種変かな……。あの人、携帯がないと困ることだらけだし。
 翠の部屋は開いたまま。兄妹会議とやらは終わったのだろうか。
 思いながらそちらへと足を向ける。
 開いたままのドアを軽くノックして一歩踏み入れた。
「秋兄、かなり荒れてたけど昼間何かあった?」
 翠は動揺し、栞さんは首を傾げ、唯一御園生さんだけが口を開いた。
< 689 / 10,041 >

この作品をシェア

pagetop