光のもとでⅠ
 数分して見かねた御園生さんが翠の名を何度か呼んだ。
「翠葉。……翠葉っ!」
 翠は身体を揺さぶられてようやく気づく。もう少し放っておいたら確実に殻に篭っていただろうという何か。
 翠はひとりになるのがうまいと思う。周りに誰がいても殻を作って独りになるのがうまい。
 でも、それもどうかとは思うけど……。
「考えすぎ……」
 御園生さんの言葉に翠は眉をひそめる。今にも泣いてしまいそうな顔だった。
「翠葉ちゃん、今にも泣きそうな顔をしているわよ?」
「栞さん……恋愛って難しい。教科書、ないのかな」
 翠の真面目な質問に、栞さんはクスクスと声を立てて笑った。
「誰もが一度は考えることね。でも、恋愛に教科書はないの。問題にぶつかるごとに自分で解決していくしかないのよ。あとは……人の経験談を聞く、かしらねぇ?」
 恋愛の教科書ね……。
 バイブルなんて言われている雑誌はそこかしこに売られてはいるけど、翠には使えない気がする。俺も読む気はしない。だいたいにして、翠相手にそこらの恋愛指南術が使える気がまったくしない。
「司先輩っ」
 突如自分に矛先を向けられ何事かと思う。
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