光のもとでⅠ
 自販機はエレベーター脇にあったはず。
 数メートル先に視線を移すと男と翠が目に入る。
 翠はあからさまに困った顔をしていた。
 そこへやってきたエレベーターのドアが開くと、翠は逃げるように乗り込んだ。
 最後に読み取れた言葉は「涼んできます」。
 エレベーターは二階に停まることなく一階まで降りた。
 俺は携帯を取り出し簾条にかける。
 携帯がつながると、機嫌の悪い声が怒鳴る。
『こんな場所で携帯が使えるわけがないでしょっ!?』
 たぶん、そんな内容だったと思う。
「だったと思う」のは、あらかじめ携帯を耳から離していたからだ。
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