光のもとでⅠ
「今、簾条がかばん持ってくるから」
 その先に言葉を続けることができなかった。
 俺は勝手に「潮時」と決めてしまったが、それで良かったのだろうか。
 背後で自動ドアが開く音がし、簾条が出てきた。
「はい、翠葉の分とあんたの」
 かばんふたつを受け取ると、
「どうしてツカサの分も……?」
「俺も帰るから」
「せっかく来たのに……?」
「来たくて来たわけじゃない」
 翠がいたから、だ。
< 6,920 / 10,041 >

この作品をシェア

pagetop