光のもとでⅠ
 金曜日、熱がようやく三十八度まで下がり退院許可が下りた。
「あとは点滴なんざ頼らず消化のいいもん食って体力戻せ。経口摂取が健康の基本だ」
 そう言われて病院を出た。
 このときはまだ何も知らなかったの。
 マンションの自室に入るまで、自分に起きた変化になんて気づきもしなかった――。

 家に帰ると、
「素うどんできてるよ」
 と、唯兄が出迎えてくれた。
 私は自室には寄らず、洗面所で手洗いうがいだけを済ませてダイニングへ向かった。
 五日ぶりのマンションだったけど、あまりにもずっと眠っていたので五日という時間の感覚が私にはなかった。
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