光のもとでⅠ
「翠葉ちゃん、病院に着いたよ」
 はっとして顔を上げると、車は病院の正面玄関に停まっていた。
 秋斗さんは私のシートベルトを外すと、
「これは俺の問題だから、翠葉ちゃんが気にする必要はないよ。だから、そんな顔しないで?」
 秋斗さんの笑顔に胸がぎゅっとなる。
 涙が零れそうになるのを必死で堪え、唇を強く噛みしめた。
 表情のほとんどはマスクが隠してくれている。
「……どうしたのかな? 何かつらいことでもある?」
「な、い……です」
「君は本当に嘘をつくのが下手だね」
 視界にハンカチを握る秋斗さんの手が見えた。
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