光のもとでⅠ

25

「こんな寒い中、どうして森におるんじゃ?」
「……暖かい場所にいたら、もっと逃げてしまいそうで……」
「……目が赤いのぉ。泣いておったのか」
 木田さんの手よりもしわくちゃなそれが眼前にゆっくりと近づいてきて、目尻の涙を拭われた。
「お嬢さんは会うたびに悩み迷っておるのぉ……」
 言われてみればそうかもしれない。
 ウィステリアデパートでお会いしたときのことを思い出す。
 あのとき、初対面にも関わらず、朗元さんは親身になって話を聞いてくれた。
 手に入れる前から失うことを考えていたら欲しいものは手に入らない。
 人間は欲する生き物である。
 欲することをやめたとき、その人は人生の半分を捨てたことになる。
 朗元さんは、そう教えてくれた。
 それから、得たものを失ったとき、失うまでに得たものをすべて失うわけではないとも――。
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