光のもとでⅠ
 冷えた身体はところどころから悲鳴をあげ始めている。
 ここで発作を起こしてホテルの人に迷惑をかけることだけは避けなくてはいけない。
 わずかな理性が働き、私は頷くことで同意した。
 朗元さんは立ち上がり、懐から携帯を取り出す。
「迎えをよこしてくれんかの?」
 それだけ言うと携帯を切った。
「すぐに迎えの者が来るじゃろうて、わしは一足先に戻っておるでの。お嬢さんはゆっくり戻ってくるといい。くれぐれも足元に気をつけての?」
 朗元さんは口髭をいじりながら、危なげなく歩みを進める。
 気づけばその背は小さくなり見えなくなっていた。
 私はピルケースから痛み止めを取り出し、タンブラーに入れてあったハーブティーで飲み下す。
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