光のもとでⅠ
「普通の傘は使っているうちに汚れて、骨と骨の間の折れる部分が黒ずんでくるでしょう?」
「……そうね。使ったあと、きれいに乾かして防水スプレーをかけても時間が経てば筋は入るわね」
「それが残念なのと――」
 ビニール傘なら空や風景が見えるから。
 中学三年生のとき、傘を忘れた私に鎌田くんがビニール傘を貸してくれた。
 それが私とビニール傘の出逢い。
 ビニール傘は傘を差しているにも関わらず、視界を遮ることもなければ視野が暗くなることもなかった。
 雨の日なのにとても明るく感じたことが不思議で、ビニール越しに見える空を眺めながら家まで帰ったのをよく覚えている。
 空から降ってくる雨が見えた。
 降ってきた雨がビニール面に着地すると、それはきれいに軽やかにはじけるのだ。
 その世界を知ってから、私は布張りの傘を手放した。
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