光のもとでⅠ
 傘を取り替えたことで視界は開け、大好きな布が少しずつ汚れていくのを見なくてもすむようになった。
 布張りの傘が汚れるのはとても悲しかったのに、それより早く劣化するビニール傘にはさほど抵抗を感じることはなかった。
 地球には優しくないけど私の心には優しい感じ。
「あ、でもね? 人が差している彩豊かな傘を見るのは好きなの」
「人の差す傘?」
「うん。とくに小学生や園児の差す傘。赤や黄色、緑に紺、ピンクにオレンジ。とっても彩り鮮やかで、まるでゼリービーンズみたいでしょう? 見ていて楽しい気持ちになるから、だから好き」
 桃華さんはクスリと笑った。
「説明を聞けば翠葉らしいと思えるわね」
 その後、桃華さんはビニール傘だとそれほど明るく感じるのかと訊き、私は一度差してみることを勧めた。
 とても穏やかな気持ちで話をしていた。
 携帯に表示される脈拍は七十前後。
 心拍が一定に保てる時間は平和だ――。
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