光のもとでⅠ
 庵の前まで戻ってくると、秋斗さんが腰を折って私の顔を覗き込む。
「俺、今日は歩きなんだよね。翠葉ちゃんは?」
「行きは蒼兄と一緒に来たんですけど、何事もなければ帰りは歩いて帰るって話しています」
「じゃ、マンションまで一緒だね」
 秋斗さんのにっこり笑顔に「はい」と答えられたのは、秋斗さんと一緒にいるのは困らないと思ったから。
 少なくとも、ツカサとふたりでいたときよりは大丈夫だと思えたから。
 私と秋斗さんはツカサに声をかけてから大学へと続く私道を歩き始めた。
 でも、ふたりになればなったでツカサがいないことを色濃く感じる。
 今日、私はツカサと何度言葉を交わすことができただろう。
 一時から一緒にいたというのに、ほとんど会話という会話をしなかった。
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