光のもとでⅠ
 濡れたままこの気温の中を走っていったら凍えるほどに寒いのでは――。
 自然と背後を振り返る。
 振り返ったところで誰の後ろ姿も見ることはできないし、視界に入るのは桜の木や警備員さんたちのみ。
 けれど、秋斗さんの姿によってその景色すら遮られた。
 いつの間にか用意された毛布が肩からかけられる。そして、
「翠葉ちゃん、無理矢理でごめんね」
 秋斗さんの声が耳元で聞こえたと思ったら、身体が宙に浮いていた。
 正しくは秋斗さんに抱え上げられていた。
「秋斗さん、私、自分で歩けますっ」
「ごめん、今は聞けない」
「私も、今はっっっ」
 腕の中で暴れ、落ちる寸前で地面に下ろされた。
 申し訳なくて顔向けできない。
 ひどいことを、間違っても口にしてはいけないことを口にした。
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