光のもとでⅠ
「翠葉。自分を大切にしなさい」
「っ……お母さんっ、私、人を叩いちゃったっ。どうしても我慢できなくて――ありがとうって心からお礼を言わなくちゃいけない人にひどいこと言っちゃった。でも、一度口にした言葉は取り消せないっ」
 どうしようっ――。
「……そうね、口にした言葉は取り消せないわ。でも、翠葉はひどいことをしたって気づいたのでしょう? 言っちゃいけない言葉だったって学んだのよ」
「そんなの、私の経験則にしかならない。相手につけた傷を消せるわけじゃない。謝って傷が消えるわけじゃないっ」
「……ひどい顔ね」
 お母さんは顔にかかる髪を手櫛で梳いてくれる。
 そこに、コンコン、とノックする音が聞こえお母さんが応じる。
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