光のもとでⅠ
 けれど、それは瞬時に消えた。
 自分が持っていたカップをテーブルに置く音にびっくりして。
 カップを握る手にも力が入っているのが見て取れる。
 両手でカップを握るのは彼女の癖。
 俺はその白い華奢な手を自分の両手で包み、彼女の名前を口にする。
 彼女は肩を揺らし、手を引っ込めようとした。
 俺は力に任せてそれを阻止した。
「翠葉ちゃんはそのままでいいんだ。……来づらかったなら来づらかったでいい。そんなことないって否定してくれてもかまわない。俺はどっちでも嬉しいから」
「え……?」
 そんなに驚くことでもないよ。
「来づらくても来てくれた……。俺を気遣って『そんなことない』って否定してくれた。その気持ちを嬉しいと思う」
 どちらであってもそこに君の気持ちはある。
 そのことが俺は嬉しい。
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