光のもとでⅠ
 髪の毛を左側に流し、後ろを見せる。
 美波さんが手に持っていたシートは半透明のものだった。だから、傷の具合はダイレクトには見えないかもしれないけれど、だいたいはわかるのではないだろうか。
 栞さんは司先輩の顔をじっと見ているようで、司先輩は一言も発しなかった。
「司くん、あくまでも無自覚よ。翠葉ちゃんが自分を傷つけようと思ってした行為じゃないの」
「……はい。それはさっき翠から聞きました。……翠、これかなり痛いだろ」
「……傷に気づくまでは少しヒリヒリ感じるくらいだったんですけど、気づいたらやっぱり痛くて……。病は気から、じゃないけれど、気の持ちようって本当にあるんだな、って思いました」
「でも、湿潤療法とってるなら傷はきれいに治るから」
 と、先輩は教えてくれた。
「傷、残ったりしない……?」
「治りが遅いように感じるかもしれないけど、実際はガーゼをかぶせたり乾燥させるよりも早くに治るし、痕も残らない」
 それは嬉しいかも……。
「早ければ一週間で治るよ」
 もっと時間がかかるかと思っていただけに少しほっとした。
 一週間ってすぐ、だよね? その間、秋斗さんに会わなければ知られずに済むよね?
 そのとき、玄関で音がし、蒼兄が帰ってきたことを知らせる。
 蒼兄は手洗いうがいを済ませてからリビングへやってきた。
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