光のもとでⅠ
「らしくないことしてるからじゃないの?」
「っ……」
 反応を得ることはできた。が、それに関して翠が何かを口にすることはなかった。
 翠は怯えた目をして、俺の前から逃げる口実を探す。
「うちのクラス、五限移動教室だから……」
「……だから? ソレ、そのまま持っていくと自分で返しに行くことになるけど?」
 我ながら、嫌な性格をしていると思う。
 でも、そのジャケットを羽織っているのを見るのも腹立たしければ、それを返しに秋兄に会いにいくことにも抵抗がある。
 俺の心に巣食った独占欲は見事なまでにその威力を発揮していた。
 翠のことだから、会わずに返す方法を考えるだろう。
 でも、一時的に秋兄のことを考えられるのも癪だ。
 さらには、一緒になって俺まで避けるのは即刻遠慮願いたい。
 沈黙多めのふたりの間に一際うるさい声が届いた。
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