光のもとでⅠ
 秋兄は困ると言いながらも優しげな笑みを浮かべた。
「……なんか、自分だけじゃないってわかって少しほっとする」
「え?」
「自分の知らない自分を引き出されて困るっていうの、俺だけじゃなくてほっとした」
「あぁ、そういう意味ね」
 秋兄が歩みを止めこちらに向き直る。
「俺たちの願いはさ――」
 交わる視線でわかる。
 そんな「願い」はひとつしかない。
「翠の笑顔」
「彼女の笑顔」
 少なくとも、今のような状況ではない。
「もっと言うなら――」
 秋兄の言葉を遮り自分が続ける。
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