光のもとでⅠ
 ゆっくりと、とてもゆっくり「恋」が始まろうとしていたんじゃないだろうか。
 記憶を取り戻すそのときまでは……。
『今度はその手を取らぬつもりか?』
『はい……』
『お嬢さんは自分に厳しいうえに欲がないのぉ……』
『朗元さん、違います。私は自分にとても甘いし欲張りです』
『とてもそうは見えぬがの』
『もし、ひとりを選んだらどうなるでしょう』
『ひとりはあぶれるのぉ。三、という奇数はそういう宿命じゃ』
 当たり前な答え。
 けれど、彼女はそれを受け入れられないと言う。
 そして、それを避ける方法がひとつある、と……。
 もう十分だ――。
 俺は耳を塞ぎたい衝動を抑え、彼女の声だけに神経を集中させる。
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