光のもとでⅠ
「お嬢さんが館内に戻ってきてからでも問題はなかろう?」
 じーさんはよほど外に出るのが嫌なのか、提案できるギリギリのところまで食い下がる。
 それも仕方のないこと。
 喘息持ちのじーさんにとって、外気温との差は身体に堪えるのだから。
 冷たく乾燥した空気は気管支を刺激し、炎症反応を促進する。
 そんなことは秋兄も知っていることだけど、秋兄も引かなかった。
「いや、大ありかな? 彼女もじーさんと同じで寒さに強いほうじゃない。でも、今の彼女は放っておいたら戻ってきそうにないからね。頃合を見計らって館内に連れ戻してほしい。それがもうひとつの頼み」
 じーさんだけではなく、翠にかかるリスクも高い。
 俺たちにはじーさんと翠のどちらかを選ぶことはできない。
 じーさんが会うというのなら、その役はじーさんが受けてしかるべき。
< 7,931 / 10,041 >

この作品をシェア

pagetop