光のもとでⅠ
 あのとき、バカはバカでもずいぶんと翠には効果的な手段を講じたと思った。
 それが秋兄の逆鱗に触れ、佐々木の出向に結びつくわけだけど――。

 翠の警備員がすり替えられていたのは、雅さんに想いを寄せる警備員と佐々木に組していた警備員が腹いせに起こしたものだった。
 人とは、欲望や嫉妬が絡むとこんなにも安易に道を踏み外すものなのか……。
 S職の警備員ともなれば、頭の切れる人間であったことは確かだ。
 雅さんを拒み、佐々木を降格、出向させた秋兄。
 どれも秋兄に向けられた憎悪の念に違いない。
 けれども、秋兄自身は守りが堅すぎて手を出せない。
 結果、すべての矛先は秋兄の弱点である翠へと向けられた。
 通常、厳戒態勢で挑む警護の場合、人事部のトップとS職管理部のトップの間で手書き書類が交わされる。
 タイミング的には、「社内改革」ともいえる大掛かりな人事があった直後。
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