光のもとでⅠ
 ふと秋兄の目を思い出す。
 ずいぶんと前に見た空ろな目を――。
 幼心に、寂しそうという言葉では言い表せないと思った。
 人の気配がすると、す、と消える目の翳りを忘れることができなかった。
「なんで今思い出すかな……」
 秋兄と海斗にはうちの両親やばーさん、俺たちがいた。
 でも、雅さんには兄妹もいなければ親身になってくれる人間もいなかっただろう。
 きっと、周りにいたのは強欲な大人ばかり。
 雅さんからしてみれば、翠は自分が持っていないものをすべて持っていることにはならないだろうか。
 あたたかな家庭、絆の強い家族。愛されて育った人間――。
 雅さんが欲して止まないのは愛情と家族……?
 雅さんが狙うとしたら翠とその家族。
 思考がそこにたどり着いたとき、目の前に家のドアがあった。
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