光のもとでⅠ
 マグカップにコーヒーを注ぎながら、
「母さん、寝られたんだ?」
「誰にものを言っている?」
 俺より少し老けただけの顔が口端を上げて答える。
「ああ、悪い。言葉を間違えた」
「わかればいい。ところで、今日の弁当だが――」
「わかってる。昼前には誰かが届けてくれるんでしょ」
「どうやらこちらも添える言葉を間違えたらしい。……会長からの課題はこなせそうなのか?」
 その問いかけもどうなんだか……。
「それ、うちには通用しない問いかけじゃんじゃない?」
「あぁ、そうだな。だが、私には藤宮の血など一滴も流れていない。この一族にどんなルールがあろうと私には関係がない。こんな言葉が救いになるのなら何度でも言ってやるが?」
 父さんは壁に寄りかかったままくつくつと笑う。
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