光のもとでⅠ
 失敗とは何を指すだろう。
 翠自身に害が及ぶことさえ避けられればいい。
 何が起こったとしても、翠だけが守られればそれでいい。
 俺は朝食を済ませ、まだベッドで寝ているだろう母さんを起こさないようにそっと廊下に出る。
 カツカツカツカツ――。
 音に振り返ると、ハナがまだ眠そうな顔をして玄関までやってきた。
「吼えるなよ……?」
 家族に向かって吼えることはないが、寝ぼけているときはたまにやらかしてくれる。
 ハナは俺に焦点をしっかりと合わせると、玄関マット上で行儀良く「お座り」をした。
 しばし見つめ合い、お互いの意思が通じたところでドアレバーに手を伸ばすと、ハナも玄関に背を向けたようで、背後からカツカツカツ、と聞き慣れた音が遠ざかっていった。
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