光のもとでⅠ
「簾条、俺は翠に会うために来たと言った。しばらく会わないうちにずいぶんと耳が遠くなったんじゃないか?」
「あら、失礼ね。知ってて言っているに決まっているでしょ?」
「あぁ、さすが性格の悪さも天下一品だな」
「お褒めに与り恐縮だわ」
 簾条との応酬は姉さんとの会話を彷彿とさせ、自分の言葉の振りように後悔した。
 視界の端で、翠はかばんからサーモスタンブラーを取り出す。
「あら、お弁当を食べるんじゃなかったの?」
「弁当は?」
 俺と簾条の声が重なり、俺たちは顔を見合わせると互いに表情をしかめた。
 そんな俺たちを見ていた翠はしどろもどろに答える。
< 8,026 / 10,041 >

この作品をシェア

pagetop