光のもとでⅠ
 一緒に弁当を食べるも、翠は携帯がなくなったことに気づいたふうではない。
 少しずつ、翠の纏う空気が和らいでいく。
 俺がこの場で食べることにだいぶ慣れたようだ。
 箸の進みも悪くない。
 ただ、この一件が片付いたら携帯のロック機能くらいは教えるべきだと思う。
 それから、携帯の扱い。
 コートのポケットに入れたまま、鍵のついていないロッカーに入れておくとかあり得ないから……。
 翠の世間知らずをどうにかしなくては、と真面目にプランを考える。
 御園生さんも唯さんも、どうしてこういう部分を叩き込んでくれないんだか……。
 秋兄に認められるほどには頭の切れるふたりが、こんなところは綻びだらけだ。
 越谷が動き出したというのに、俺は卵焼きを口に入れて嬉しそうに頬を緩ませる翠のことしか考えていなかった。
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