光のもとでⅠ
「池に入るつもりじゃないだろうなっ!?」
「放してっっっ。それの何が悪いのっ!?」
「携帯なんて替えがきくだろっ!?」
「きかないっ。替えなんてきくわけないでしょっ!? いただいたストラップもとんぼ玉も、唯兄の大切な鍵もっ、メールのやり取りも録音してあった声も――替えのきくものなんてひとつもないっっっ」
 力を加減していたわけでもないのに、その手を目一杯振り払われた。
 俺を見た翠の目は、表面張力の決壊ぎりぎりまで涙が溜まっていた。
 あと数秒で零れる……。
「お願いだから放っておいてっ」
 そう言って、翠は再び池の方へと身体を向けた。
 放っておけるわけがなかった。
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