光のもとでⅠ
 どんな意外な展開になろうとこの外気温は無視できるものではなかったし、水温がどのくらいか、ということには頭がしっかりと働く。
 もっと別のことに頭が働けば良かったのに――。
 池に落ちた携帯はダミーだと、このとき伝えられていたら何か変わっていたかもしれない。
 でも、そんなのはあとの祭りだ……。

 池に翠が入るなど、黙って見ていられるわけがなかった。
 俺は手早く上着を脱ぐと、それを翠に放った。
 背にかけるというより、頭の上に落とした感が否めない。
「もう十一月下旬なんだ。そんな薄着でいるな。コートは着ないと意味がない」
 反論を聞く前に、俺の次の行動を悟られる前に翠の前方へ出る必要があった。
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