光のもとでⅠ
 水の中はコポコポと音がする。
 それは自分が吐き出す息の音。
 気泡は迷いなく水面へと浮上していく。
 水底は暗い。
 けど、しばらくして気づく。
 水底ではなく、池の中がひとつの闇なのだと。
 その闇に、自分が溶け込んでしまう気がした。
 何も見えない中、底に手がつくと手探りのみで携帯を探す。
 それはまるで今の俺そのもの。
 何も見えない中、手探りで翠という人間と向き合う。
 効率が悪い。
 そんなことだってわかっている。
 本当は、明日の明るい時間に警備員を使って引き揚げ作業をするつもりでいた。
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